ת
タウ
Tav / Taw
字形の由来
タウの字形は「しるし・印(תָּו / tav)」を象形したものに由来します。古代フェニキア文字では十字(×)の形をしており、これがギリシア文字のタウ(Τ)・ラテン文字の T に引き継がれました。エゼキエル9:4〜6では神が「嘆き悲しむ者の額にタウ(תָּו)のしるしをつけよ」と命じる場面があり、古代においてタウが「保護のしるし」として機能したことが示されます。
タウはアレフベット22文字の最後の文字です。ユダヤの伝統では「アレフからタウまで(מֵאָלֶף עַד תָּו)」という表現が「AからZまで」と同様に「すべて」を意味します。タウはベグダフケファット(BeGaDKePhaT)の一文字で、ダゲシュあり(תּ)は /t/、ダゲシュなしは古典的には /θ/(英語 "th")で発音されましたが、現代ヘブライ語では両者とも /t/ で発音されます。
聖書の単語
תּוֹרָה
Torah
律法、教え、指示
旧約聖書・ユダヤ教の最重要語。「投げる・教示する」という動詞 יָרָה から派生し、本来は「指示・教え」を意味する。狭義では「モーセ五書(創世記〜申命記)」、広義では「神の教え全般」を指す。詩篇1篇の義人は「昼も夜も主の律法を思い続ける(בְּתוֹרַת יְהוָה חֶפְצוֹ)」者として描かれ、詩篇119篇(176節の長詩)は全篇にわたって תּוֹרָה への愛を歌い上げる。
תְּפִלָּה
Tefillah
祈り、嘆願
旧約聖書における祈りを表す主要名詞。詩篇72:20の「כָּלּוּ תְפִלּוֹת דָּוִד(ダビデの祈りは終わった)」でこの語が詩篇第二巻の結びとして用いられる。列王記上8:28〜54のソロモンの神殿奉献の祈りでは「תְּפִלָּה」が繰り返され、神殿が「祈りの家(בֵּית תְּפִלָּה)」(イザヤ56:7)とされる基盤となる。ユダヤ教では「アミダー祈祷」を単に「テフィラー」と呼ぶ。
תְּהִלִּים
Tehillim
詩篇(賛美の歌々)
旧約聖書の詩篇のヘブライ語名。「賛美(תְּהִלָּה)」の複数形で「賛美の書」を意味する。150篇からなる礼拝詩集であり、嘆き・感謝・賛美・知恵・王権・巡礼など多様なジャンルを含む。ユダヤの礼拝・個人の祈り・教会典礼に2000年以上使われ続けており、旧約聖書で最も広く読まれる書の一つ。詩篇の最後の語は「הַלְלוּיָהּ(ハレルヤ)」で締めくくられる。
תּוֹדָה
Todah
感謝、感謝の献げもの、賛美
「感謝・告白」を意味し、神殿礼拝では「感謝の献げもの(זֶבַח תּוֹדָה)」という特定の犠牲の種類を指した。詩篇100篇(「感謝の詩篇」)の「בֹּאוּ שְׁעָרָיו בְּתוֹדָה(感謝をもって主の門に入れ)」が代表的用例。現代ヘブライ語では「ありがとう(トダ)」として日常挨拶に定着しており、古代の礼拝言語が現代に生きている語。
תִּקְוָה
Tikvah
希望、期待
「縄・細い糸・望み」を意味する語根 קָוָה から来る名詞で「希望・期待」を表す。ラハブが偵察兵に窓から垂らした「חוּט הַתִּקְוָה הַשָּׁנִי(緋の縄)」(ヨシュア2:18〜21)でも使われ、「救いのしるし」と「希望」が一語に重なっている。イスラエル国の国歌「ハ・ティクヴァー(希望)」はこの語を題名とし、2000年の離散を経ながら故国への望みを歌い続けたユダヤ民族の魂の言葉として世界的に知られる。
תָּמִיד
Tamid
常に、絶えず、いつも
時間的な「途切れのなさ・継続性」を表す副詞。幕屋・神殿での「絶え間ない燔祭(עֹלַת תָּמִיד)」(出エジプト29:42)、「絶え間なく燃やされるともし火(נֵר תָּמִיד)」(出エジプト27:20)などの礼拝用語として頻出する。詩篇25:15の「עֵינַי תָּמִיד אֶל יְהוָה(わたしの目はいつも主に向けられている)」など信仰の恒常性を表す詩語としても機能する。
תְּשׁוּבָה
Teshuvah
回帰、悔い改め、返答
動詞 שׁוּב(帰る・立ち返る)から派生した名詞で、「(神のもとへ)立ち返ること」を意味する。後期ユダヤ教・ラビ文学では「悔い改め」の中心語として発展し、ヨム・キプル(贖罪の日)の三柱「テシュバー・ティフィラー・ツェダカー(悔い改め・祈り・施し)」の筆頭に置かれる。旧約聖書では動詞形 שׁוּב(ヨエル2:13「主に立ち帰れ」等)が中心だが、名詞形は預言書の「回心」神学の基盤。
תֹּהוּ
Tohu
混沌、空虚さ、無秩序
創世記1:2の「תֹהוּ וָבֹהוּ(形なく空虚な・混沌と空虚)」として天地創造の最初の状態を描写する語。神の創造行為は「トフ(混沌)」に秩序をもたらすこととして描かれる。イザヤ45:18の「לֹא תֹהוּ בְרָאָהּ(神は地を混沌として創られたのではない)」は創造の目的論的方向性を示し、イザヤ34:11の「測り縄は混沌(קַו תֹהוּ)となる」は裁きによる文明の崩壊を「創造の逆転」として描写する。
תֵּבָה
Tevah
箱、方舟(ノア・モーセ)
旧約聖書でわずか28回しか登場しない語だが、2つの決定的な救済物語の核心を成す。創世記6〜9章の「ノアの方舟(תֵּבַת נֹחַ)」と、出エジプト2:3〜5のモーセが入れられたパピルスの「籠(תֵּבַת גֹּמֶא)」に同じ語が使われる。神の民を洪水・迫害から守り救い出す「守りの器」として機能し、神の救済行動の象徴的語彙となっている。
תּוֹלְדֹת
Toledot
歴史、系譜、「〜の物語」
創世記の構造を形作る重要な標題語。「אֵלֶּה תּוֹלְדֹת(これは〜の歴史・系譜である)」という定型表現が創世記2:4(天地の歴史)・6:9(ノアの歴史)・11:10(セムの系譜)・37:2(ヤコブの歴史)など10回登場し、創世記全体をいくつかの「物語(トレドット)のまとまり」に区分する文学的フレームを形成する。「産む・生み出す」という語根 יָלַד からの派生語で、歴史とは「命の連鎖」であることを示す。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。