ח
ヘート
Het
字形の由来
ヘートの字形は、古代フェニキア文字の「垣根」または「囲い」に由来するとされます。柵や格子のような形がやがてヘブライ文字の ח になりました。ギリシア文字の「エータ(Η)」、ラテン文字の「H」も同じ起源を持ちます。
ヘートは /ħ/(喉の奥から出す摩擦音)を表し、日本語の「ハ行」よりも深い位置で発音されます。ヘーと混同されやすいですが、字形は ה と ח で異なります。ヘートを語根に持つ語には旧約聖書神学の核心をなす重要語が集中しており、特に חֶסֶד(慈しみ)は旧約聖書を貫く最重要概念のひとつです。
聖書に登場する単語
חַיִּים
Chayyim
命、いのち(複数形)
「命」を意味する語で、ヘブライ語では常に複数形で使われる。「主なる神は、土の塵で人(הָאָדָם)を形づくり、命の息(נִשְׁמַת חַיִּים)をその鼻に吹き入れられた」(創世記2:7)。「命の木(עֵץ הַחַיִּים)」(創世記2:9)も同じ語。
חָטָא
Chata
罪を犯す、的を外す
「罪を犯す」を意味する動詞で、本来の意味は「的を外す」。名詞形 חַטָּאת(sin、罪のいけにえ)は旧約聖書の贖罪神学の核心語。「罪(חַטָּאת)はあなたの戸口で待ち伏せしている」(創世記4:7)でカインへの警告に初登場する。
חֶסֶד
Hesed
慈しみ、誠実な愛、契約の愛
旧約聖書神学の最重要語のひとつ。契約に基づく神の揺るぎない愛・忠実さ・慈しみを表す。一語で完全に訳すことが難しく、英語では "lovingkindness"・"steadfast love"・"mercy" などが使われる。「主の慈しみ(חֶסֶד יְהוָה)はとこしえまで」(詩篇136篇)は全26節の繰り返し句。
חָכְמָה
Chokmah
知恵
「知恵」を意味する語で、ヘブライ的な「知恵」は抽象的な知識ではなく、神を恐れることに基づく実践的な生き方を指す。「主を恐れることは知恵(חָכְמָה)の初め」(箴言9:10)。ヨブ記・箴言・コヘレトの「知恵文学」の中心概念。
חֹק
Choq
掟、定め、法令
「掟」「定め」「法令」を意味する語で、モーセ律法の規定を指す語群のひとつ。「あなたがたはわたしの掟(חֻקֹּתַי)と法令(מִשְׁפָּטַי)を守りなさい」(レビ18:4)。詩篇119篇はこの語を含む律法への愛を繰り返し表現する長詩。
חֵרוּת
Herut
自由、解放
「自由」「解放」を意味する語。出エジプトの出来事はユダヤ教・キリスト教における「解放」の原型的出来事とされる。現代ヘブライ語でも「自由」を表す語として使われ、イスラエル独立記念日(יוֹם הָעַצְמָאוּת)の文脈でも重要な語。
חָנַן
Chanan
恵みを与える、あわれむ
「恵みを与える」「あわれむ」を意味する動詞。名詞形 חֵן(hen / 恵み・好意)は「ノアは主の好意(חֵן)を得た」(創世記6:8)に登場する。神の御名に含まれる「恵み深い(חַנּוּן)」(出エジプト34:6)もこの語根。「ハンナ」「ヨハネ」などの人名にも由来する。
חָזָק
Chazaq
強い、力強い、強くある
「強い」「力強い」を意味する語。「強くあれ、雄々しくあれ(חֲזַק וֶאֱמָץ)」(ヨシュア1:6)はモーセからヨシュアへの使命継承の場面で繰り返される励ましの言葉。ユダヤ教では律法の章を読み終えたあとに「ハザク・ハザク・ヴェニトハゼク(強くあれ、強くあれ、強められよ)」と唱える慣習がある。
חַג
Chag
祭り、祝祭
「祭り」「祝祭」を意味する語。旧約聖書の三大巡礼祭(過越・七週・仮庵)を指す際に使われる。「あなたはわたしのために年に三度、祭り(חָג)を行いなさい」(出エジプト23:14)。現代ヘブライ語でも「ハグ・サメアッハ(חַג שָׂמֵחַ)=良いお祭りを」という挨拶で使われる。
חָשַׁב
Chashav
数える、考える、みなす
「数える」「考える」「みなす」を意味する動詞。「アブラムは主を信じた。主はそれを彼の義(צְדָקָה)と認められた(וַיַּחְשְׁבֶהָ)」(創世記15:6)は信仰による義認を語る新約聖書(ローマ4章)でも引用される重要箇所。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。