ע
アイン
Ayin
字形の由来
アインの字形は「目(עַיִן / ayin)」を象形したものに由来します。古代フェニキア文字では円い目の形をしており、ギリシア文字のオメガ(Ω)やオミクロン(Ο)の遠い祖先とも見なされています。アインという文字名そのものが「目」を意味し、また「泉・水源」をも意味します(目から涙が湧き出るように、泉が水を湧き出すことから)。
アインは「咽頭摩擦音(有声咽頭音 /ʕ/)」という、日本語や英語には存在しない喉の奥を絞るような特殊な子音です。アレフ(א)が無声喉音であるのに対し、アインは有声喉音であり、アラビア語では今も明確に区別して発音されます。現代のイスラエル・ヘブライ語では多くの話者がアレフと同様に無音化しており、文字の区別は主に綴りの上で保持されます。
聖書の単語
עַיִן
Ayin
目、泉、水源
文字名の語源であり、「目」と「泉・水源」の両方を意味する多義語。創世記3:7で禁断の実を食べた「וַתִּפָּקַחְנָה עֵינֵי שְׁנֵיהֶם(二人の目が開かれた)」、申命記12:25の「הַיָּשָׁר בְּעֵינֵי יְהוָה(主の目に正しいこと)」のように、「神の目に」という表現は旧約の道徳判断を表す定型表現として機能する。
עוֹלָם
Olam
永遠、世界、太古
「遠い過去」から「遠い未来」に至る時間の広がりを指し、「永遠・世・時代」を表す。「לְעוֹלָם וָעֶד(世々限りなく)」は詩篇の礼拝表現として頻出する。詩篇136の各節末尾「כִּי לְעוֹלָם חַסְדּוֹ(その慈しみはとこしえに)」は26回繰り返されるリフレイン。神学的には「空間的な宇宙(世界)」と「時間的な永遠」の両方を内包する語。
עַם
Am
民、人々、国民
「עַם יְהוָה(主の民)」「עַמִּי(わたしの民)」は旧約聖書全体を貫く神とイスラエルの契約関係の核心語。出エジプト3:7で神が「רָאֹה רָאִיתִי אֶת עֳנִי עַמִּי(わたしはわたしの民の苦しみをつぶさに見た)」とモーセに語る場面は、神の解放行動の出発点。ホセア・エレミヤ・エゼキエルの「わたしは彼らの神、彼らはわたしの民」という契約定型句にも中心語として登場する。
עֵץ
Etz
木、樹木、木材
創世記2:9の「עֵץ הַחַיִּים(命の木)」と「עֵץ הַדַּעַת טוֹב וָרָע(善悪の知識の木)」の二本の木はエデン物語の中心。「木(עֵץ)」は詩篇1:3で「水路のそばに植えられた木」として律法を愛する人のたとえに使われ、箴言3:18では知恵を「עֵץ חַיִּים(命の木)」にたとえる。
עֶבֶד
Eved
しもべ、奴隷、僕(しもべ)
「奴隷・しもべ」を意味するが、旧約聖書では神に仕える者の称号として肯定的に使われる。「עֶבֶד יְהוָה(主のしもべ)」はモーセ(申命記34:5)・ダビデ(詩篇36:1)などを指す高位の称号。イザヤ書53章の「苦難のしもべ(עַבְדִּי)」は新約聖書がキリストの受難と重ねる預言詩。固有名詞「オバデヤ(עֹבַדְיָה)=主のしもべ」もこの語から。
עָשָׂה
Asah
作る、行う、成す
創世記1章の天地創造で「בָּרָא(無から創る)」とともに繰り返される動詞。「神は〜を作られた(וַיַּעַשׂ אֱלֹהִים)」という表現で創造の各段階を示す。十戒(出エジプト20:9〜10)の「六日間働き(תַּעֲבֹד)…すべての仕事(מְלַאכְתֶּךָ)をせよ」にも関連し、人間の労働と神の安息日の構造を示す基礎動詞。
עֲבֹדָה
Avodah
仕事、奉仕、礼拝
「労働・奉仕・礼拝・儀式」を幅広く指す語。出エジプト記でイスラエルがエジプトで強いられた「苦しい仕事(עֲבֹדַת פֶּרֶךְ)」から、幕屋・神殿での礼拝奉仕まで同じ語が使われる。この意図的な言葉の重なりは、「エジプトへの奉仕から神への奉仕・礼拝へ」という出エジプトの神学的意味を凝縮して示す。現代ヘブライ語でも「仕事(アヴォダー)」として日常的に使われる。
עֹז
Oz
力、強さ、牙城
詩篇の礼拝語として頻出する語。詩篇28:7の「יְהוָה עֻזִּי וּמָגִנִּי(主はわたしの力と盾)」、詩篇46:2の「אֱלֹהִים לָנוּ מַחֲסֶה וָעֹז(神はわたしたちの避け所、わたしたちの力)」など、神の力強さと守りを讃える詩篇に繰り返し登場する。出エジプト15:2の勝利の歌「עָזִּי וְזִמְרָת יָהּ(主はわたしの力、わたしの歌)」にも現れる。
עָנִי
Ani
貧しい者、虐げられた者、謙った者
経済的貧困だけでなく社会的弱者・虐げられた者を広く指す。詩篇・預言書でこの語を持つ人々への神の特別な関心が繰り返し示される。詩篇9:13の「גֹּאֵל דָּמֵי עֲנִיִּים(貧しい者の血の復讐者)」、詩篇68:11の「יָכִין בְּטוֹבָתוֹ לֶעָנִי(神は貧しい者のために備えてくださる)」のように、神は貧者の「ゴアル(贖い主)」として描かれる。アモス・イザヤ・ミカの社会預言の中心語でもある。
עִיר
Ir
町、城壁のある都市
城壁で囲まれた定住地を指す語。創世記4:17でカインが建てた最初の「町(עִיר)」に初出。「עִיר דָּוִד(ダビデの町)」はエルサレムの核心部を指し、「עִיר הָאֱלֹהִים(神の町)」(詩篇46:5)は聖なる都エルサレムを讃える表現として詩篇に繰り返し登場する。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。