פ
ペー
Pe / Peh
字形の由来
ペーの字形は「口(פֶּה / peh)」を象形したものに由来します。古代フェニキア文字では口の形を示す記号であり、ギリシア文字のパイ(Π)やラテン文字の P の祖先にあたります。語尾形(ペー・ソフィート)は ף と書き、縦長に伸びた形をとります。
ペーはカフ・ベート同様「ベグダフケファット」の一文字で、ダゲシュあり(ペー / פּ)は /p/、ダゲシュなし(ファー / פ)は /f/ と発音が変わります。「神の口(פִּי יְהוָה)」「主の口が語った(כִּי פִּי יְהוָה דִּבֵּר)」という定型表現が旧約聖書全体に頻出し、ペーという文字が「神の言葉」という概念と深く結びついていることを示します。
聖書の単語
פֶּה
Peh
口、発言、端(of sword)
ペーという文字名の語源。「口」の意味から転じて、「剣の口(פִּי חָרֶב)=剣の刃」という慣用句にも使われる。出エジプト4:10でモーセが「לֹא אִישׁ דְּבָרִים אָנֹכִי כִּי כְבַד פֶּה וּכְבַד לָשׁוֹן אָנֹכִי(わたしは口が重く、舌が重い)」と神に訴える場面が有名。申命記8:3の「עַל כָּל מוֹצָא פִי יְהוָה(主の口から出るすべての言葉によって)」はイエスが引用する。
פָּנִים
Panim
顔、御前、表面(複数形のみ)
「顔」を意味するが常に複数形で用いられる(単数形は存在しない)。「לִפְנֵי יְהוָה(主の御前に)」という前置詞表現は旧約聖書に数百回登場し、礼拝・審判・祈りの場を示す。民数記6:25の祭司の祝福「יָאֵר יְהוָה פָּנָיו אֵלֶיךָ(主がその御顔をあなたに向けてくださるように)」は神の恵みの臨在を最も美しく表現した一節。
פֶּסַח
Pesach
過越(すぎこし)、過越の祭り
出エジプト12章でエジプトの長子が打たれた夜、子羊の血を塗った家を主が「過ぎ越した(פָּסַח)」ことに由来する祭り。旧約聖書最大の救済イベント「出エジプト」を記念する年3回の主要祭りの一つで、今もユダヤ教の最重要の祭りとして毎年春に祝われる。ギリシア語 Πάσχα(パスハ)・英語 Passover の語源。
פֶּסֶל
Pesel
刻んだ像、偶像
出エジプト20:4の十戒第2条「לֹא תַעֲשֶׂה לְךָ פֶסֶל(刻んだ像を作ってはならない)」に登場する語。ヤハウェ宗教の最も基本的な禁止事項の一つを表し、預言者(イザヤ44章等)は偶像礼拝を「木を切って半分を燃やし、残りで神を彫る」と徹底的に風刺した。申命記・列王記の歴史叙述でも「偶像礼拝」を裁く文脈で繰り返し登場する。
פְּרִי
Peri
実、果物、成果
創世記1:11の「עֵץ פְּרִי עֹשֶׂה פְּרִי(実を結ぶ実の木)」に初出し、エデンの実(창2:16–17)とも結びつく。詩篇1:3の「時が来ると実を結ぶ木のように」では義人を「実を結ぶ木」にたとえ、箴言11:30の「פְּרִי צַדִּיק עֵץ חַיִּים(義人の実りは命の木)」にも登場。「身の実(子ども)(פְּרִי בֶטֶן)」という慣用表現でも旧約に頻出する。
פָּקַד
Paqad
顧みる、訪れる、罰する、数える
旧約聖書最大の多義語の一つ。文脈によって「恵みをもって顧みる(창世記21:1 でサラを顧みる)」「罰する・審判する(出エジプト20:5 の「罪を罰する(פֹּקֵד עֲוֹן)」」「数える(民数記1章の人口調査)」と正反対の意味を持ちえる。神の「顧み」がポジティブかネガティブかは文脈で決まるため、この語の理解は旧約の神学的解釈に直結する。
פָּרַשׁ
Parash
馬兵、騎士
戦車の馬・騎兵を指す語。申命記17:16でイスラエルの王に「לֹא יַרְבֶּה לּוֹ סוּסִים(馬を多く持ってはならない)」と命じられた文脈に関連し、エジプトの「פָּרָשָׁיו(騎兵)」が葦の海に沈んだ出エジプト14:17でも登場する。ゼカリヤ書の終末幻視にも騎兵が登場し、預言文学の軍事描写の語彙として機能する。
פָּנָה
Panah
向く、振り返る、顔を向ける
「顔(פָּנִים)」と同語根の動詞。「神に向かって祈る」「偶像に向かって背を向ける(拒否する)」「道を切り開く」など多様な文脈で使われる。イザヤ40:3の「פַּנּוּ דֶּרֶךְ יְהוָה(主の道を備えよ)」はバプテスマのヨハネの登場を告げる預言として新約聖書が引用する有名な節。
פְּלִשְׁתִּים
Pelishtim
ペリシテ人
カナンの海岸平野に定住したイスラエルの宿敵。士師記(サムソン)・サムエル記(ダビデとゴリアテ)に多く登場し、鉄器技術を独占してイスラエルを圧迫した民族。「パレスチナ(Palestine)」という地名はこの語に由来する。創世記21章にすでにアブラハムの時代のペリシテ人が登場しており、旧約聖書を通じて存在感のある民族として描かれる。
פְּדוּת
Pedut
贖い、救出、身代金
「買い戻す・贖う」を意味する語根 פָּדָה から派生した名詞。詩篇130:7の「וְהַרְבֵּה עִמּוֹ פְדוּת(主のもとには豊かな贖いがある)」に登場し、詩篇111:9の「פְּדוּת שָׁלַח לְעַמּוֹ(その民に贖いを送られた)」でも神の救済行為を表す。旧約の贖い思想(ゴアル・パダ)の文脈で使われる神学的名詞。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。