ס
サメフ
Samekh
字形の由来
サメフの字形は「支柱・支え」を意味する語に由来するとされます。古代フェニキア文字では柱のような形をしており、それが変形して現代のヘブライ文字 ס になりました。閉じた円形の形は、ギリシア文字のオミクロン(Ο)やラテン文字の O と同じ系統に属します。
サメフは旧約聖書の中で比較的出現頻度の低い文字ですが、それでも סֵפֶר(書物)・סֶלָה(詩篇の楽譜記号)・סָלַח(赦す)のような神学的に重要な語を持ちます。また動詞 סָמַךְ(支える・手を置く)はその字形同様「支える」という意味を持ち、旧約の按手(手を置く儀式)を表す専門語としても機能します。
聖書の単語
סֵפֶר
Sefer
書物、巻物、書状
旧約聖書において「書かれたもの・記録・文書」全般を指す語。「סֵפֶר הַתּוֹרָה(律法の書)」は申命記・列王記下・ネヘミヤ記に登場し、書かれた律法の権威を示す。出エジプト32:32でモーセが「מְחֵנִי נָא מִסִּפְרְךָ(あなたの書物から私の名を消してください)」と神に祈る場面では、「命の書(סֵפֶר הַחַיִּים)」という概念が示唆される。
סֶלָה
Selah
セラ(詩篇の楽譜記号・休止・高揚)
詩篇に71回・ハバクク書に3回登場する謎めいた記号語。「間奏」「休止」「声を高める」など様々に解釈されているが、確定的な意味は不明。詩篇の朗唱・歌唱において何らかの演奏上の指示を示すとされる。詩篇46:4「נַהַר פְּלָגָיו יְשַׂמְּחוּ עִיר אֱלֹהִים קֹדֶשׁ מִשְׁכְּנֵי עֶלְיוֹן סֶלָה」のように、強調・転換点に用いられる傾向がある。
סָלַח
Salach
赦す(神が人を)
注目すべき特徴として、この動詞は旧約聖書において常に神を主語とし、人間が他者を「赦す」のに使われることはない。詩篇86:5の「כִּי אַתָּה אֲדֹנָי טוֹב וְסַלָּח(主よ、あなたは善く、赦しを与えてくださる)」、民数記14:19〜20でモーセが民のために執り成し「סָלַחְתִּי כִּדְבָרֶךָ(あなたの言葉通りに赦した)」と神が応じる場面が有名。
סִינַי
Sinai
シナイ山(律法授与の山)
出エジプト19〜24章でモーセが神から律法(十戒を含む)を受け取った聖なる山。「הַר סִינַי(シナイ山)」は旧約聖書神学において「神の啓示・契約・律法の授与」の場として特別な意味を持ち、申命記ではしばしば「ホレブ(חֹרֵב)」とも呼ばれる。ガラテヤ書でパウロがアブラハム契約との対比に用いる舞台でもある。
סֻכָּה
Sukkah
仮小屋、仮庵(かりいお)
レビ記23:42の「בַּסֻּכֹּת תֵּשְׁבוּ שִׁבְעַת יָמִים(七日間、仮庵に住め)」に基づくユダヤ教の祭り「仮庵の祭り(חַג הַסֻּכּוֹת)」の中心語。荒野で40年間仮小屋に住んだイスラエルを記念し、今もユダヤ人は仮の小屋を建てて7日間その中で食事をする。詩篇の「あずまや(בְּסֻכָּה)」にも登場する。
סוֹד
Sod
秘密、親密な交わり、会議
「秘密の相談・親密な交わり」を意味する語。アモス3:7の「כִּי לֹא יַעֲשֶׂה אֲדֹנָי יְהוִה דָּבָר כִּי אִם גָּלָה סוֹדוֹ אֶל עֲבָדָיו הַנְּבִיאִים(主は預言者たちにご自分の秘密(סוֹד)を示さずには何もされない)」はアモスの預言者神学の核心。詩篇25:14の「主の親密な交わり(סוֹד יְהוָה)は主を恐れる者のため」にも登場する。
סָמַךְ
Samach
支える、手を置く(按手する)
「体重をかけて寄りかかる・支える」という基本の意味から、「手を置く(按手)」という祭儀的行為を表す専門語に発展した。レビ記1:4で犠牲の動物の頭に手を置く(וְסָמַךְ יָדוֹ)儀式に使われ、民数記27:18でモーセがヨシュアに按手して後継者に任命する場面にも登場。旧約の祭儀・任職の中核をなす語。
סָגַר
Sagar
閉じる、閉め込む
創世記7:16の「וַיִּסְגֹּר יְהוָה בַּעֲדוֹ(主は彼のために(方舟の扉を)閉められた)」に登場する。神がノアのために方舟の扉を閉めたという描写は、神の保護と決断を示す象徴的場面。詩篇31:9「口を閉ざされた魚のように(כְּדָג בִּמְצוֹדָה)」の背景にも通じる「閉じ込め・保護・封印」の概念を表す。
סוּס
Sus
馬
旧約聖書の軍事・王権の文脈で頻出する動物。申命記17:16で王は「לֹא יַרְבֶּה לּוֹ סוּסִים(馬を多く持ってはならない)」と命じられており、軍事的力への依存を戒める。詩篇33:17の「שֶׁקֶר הַסּוּס לִתְשׁוּעָה(馬は救いの空頼み)」、イザヤ31:1の「馬を頼みとする者は」など、神信頼 vs 軍事力という対比の文脈で繰り返し登場する。
סְלִיחָה
Selichah
赦し、許し
動詞 סָלַח(赦す)から派生した名詞。詩篇130:4の「כִּי עִמְּךָ הַסְּלִיחָה(赦しはあなたとともにある)」に登場し、神の赦しの性質を直接表す。ユダヤ教ではヨム・キプル(贖罪の日)の前夜に「セリホット(סְלִיחוֹת)」と呼ばれる特別な赦しの祈りを行う慣習があり、この語が典礼の中心を占めている。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。