בֵי
ツェレ・ヨード
Tsere Yod · ê
記号の由来と用法
ツェレ・ヨード(צֵרֵי יוֹד)は、ツェレ(ֵ)とヨッド(י)を組み合わせた長母音「エー(ê)」である。ヨッドは母字(マーテル・レクティオニス)として機能し、発音されずに母音の長さを視覚的に示す。ツェレ単独の長さ(ֵ)と音価は同じであるが、ヨッドが付くことでより安定した書き方となっている。ヒレク・ヨードやシュルクと並ぶ「有字長母音」のひとつで、ヘブライ語の読み書きにおいて重要な位置を占める。
ツェレ・ヨードは連語形(コンストラクト)に多く現れる。たとえば「家(בַּיִת)」の連語形 בֵּית(〜の家)、「水(מַיִם)」の連語形複数 מֵי(〜の水)、「泉・目(עַיִן)」の連語形 עֵין などがその典型例である。語根の中にヨッドを含む「中空根語」でも頻出し、「ない・いない」を表す אֵין(アイン)は旧約全体で最高頻度の語のひとつである。
聖書に登場する単語
בֵּית
Beit
〜の家、〜の神殿(連語形)
「家(בַּיִת)」の連語形で、名詞の前に置いて「〜の家・〜の神殿」を意味する。בֵּית לֶחֶם(ベツレヘム=「パンの家」、ルツ記1:1・ミカ書5:1)・בֵּית אֵל(ベテル=「神の家」、創世記28:19でヤコブが命名)など、地名の構成要素として聖書地理に広く登場する。また בֵּית יְהוָה(主の家=神殿)も詩編・歴代誌に頻出する。連語形になるときに母音がシフトして בֵּי にツェレ・ヨードが生まれる。
אֵין
Ein
ない、いない、〜ではない
ヘブライ語で「存在しない・ない」を表す否定存在詞。「ある・いる」を表す יֵשׁ の対語で、旧約全体で何百回と使われる超高頻度語。申命記4:35「אֵין עוֹד מִלְּבַדּוֹ(ほかに神はいない)」のようなヘブライ語一神教の核心表現にも用いられ、イザヤ書45章などの「唯一神宣言」にも繰り返し登場する。語頭の אֵי にツェレ・ヨードが現れる。
עֵין
Ein
泉、目(連語形)
「泉・目・水源」を意味する語で、地名の構成要素として聖書に頻出する。עֵין גֶּדִי(エン・ゲディ=「ヤギの泉」、ヨシュア記15:62・雅歌1:14)は死海西岸のオアシスとして有名。絶対形は עַיִן だが、連語形・地名では עֵין の形が使われ、ツェレ・ヨードを持つ。「目」と「泉」が同一語であることはヘブライ語の詩的表現に深みをもたらしている。
גֵּיא
Gei
谷、峡谷
険しい峡谷や溝状の谷地形を指す名詞。詩編23:4「בְּגֵיא צַלְמָוֶת(死の陰の谷)を行くときも わたしは災いを恐れない。あなたがわたしと共にいてくださる」の「谷」にこの語が使われる。闇と危険の象徴として用いられながらも、神の同伴への信頼を告白する文脈に登場するため、信仰の核心語として読者の記憶に刻まれる。語頭の גֵּי にツェレ・ヨードが現れる。
מֵי
Mei
〜の水(「水」の連語形複数)
「水(מַיִם)」の連語形複数で、「〜の水」を意味する。詩編23:2「主はわたしを青草の原に休ませ 憩いの水(מֵי מְנֻחוֹת)のほとりに伴い」に登場し、神に導かれる羊の平和な姿を描く。同じ詩篇23篇の4節に גֵּיא(谷)が登場することと合わせ、この短い詩の中にツェレ・ヨードの典型語が二つ含まれている。語頭の מֵי がそのままツェレ・ヨードのパターンを示す。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。