בָה
大カメツ・ヘー
Qamets He · â
記号の由来と用法
大カメツ・ヘー(קָמַץ הֵא)は、単独の母音記号ではなく、カメツ(ָ)と語末の無音ヘー(ה)が組み合わさったパターンである。語尾の ה は発音されず(黙字)、カメツの長い「アー」音だけが聞こえる。これを「大カメツ・ヘー」または「カメツ・ヘアー」と呼ぶ。
この語末 ָה のパターンは旧約聖書で非常に広く使われており、主に2つの用法がある。ひとつは女性名詞・女性固有名詞に付く女性語尾(ָה)であり、תּוֹרָה(律法)・שָׂרָה(サラ)・שִׂמְחָה(喜び)など数多くの語に現れる。もうひとつは方向を示す「方向のヘー(הֵא הַלּוֹכָה)」であり、אַרְצָה(陸地の方へ)・מִצְרַיְמָה(エジプトの方へ)のように名詞に ָה を付けて移動の方向を表す。なお、語末の ה に点(マッピーク)が打たれた הּ は発音される子音ヘーであり、この黙字の大カメツ・ヘーとは区別する必要がある。
聖書に登場する単語
תּוֹרָה
Torah
律法、教え、指示
「指示する・教える」動詞 ירה の派生名詞で、「神の教え・指示」を意味する。モーセ五書全体を指す場合も、律法の個別の規定を指す場合もある。詩編1:2には「主の教え(תּוֹרַת יְהוָה)を愛し、その教えを昼も夜も口ずさむ人」とあり、トーラーを日々思い巡らす信仰者の姿が描かれる。連語形では תּוֹרַת と変化するが、独立形のトーラーは語末の大カメツ・ヘーを持つ。
שָׂרָה
Sarah
サラ(人名)、女族長
「王女・貴婦人」を意味するヘブライ語の普通名詞から転じた固有名詞。もとの名はサライ(שָׂרַי)であったが、創世記17:15で神がアブラハムに「あなたの妻の名はサラ(שָׂרָה)と呼びなさい」と命じ改名された。アブラハムの妻であり、イサクの母として信仰の母型とされる。語末の ָה が大カメツ・ヘーのパターン。
שִׂמְחָה
Simchah
喜び、歓喜
「喜ぶ・楽しむ」動詞 שׂמח の女性名詞形。申命記12:12「主の前で喜びなさい(וּשְׂמַחְתֶּם)」など礼拝・祭りの文脈で関連語が頻出し、詩編30:12「あなたはわたしの嘆きを踊りに変え…わたしは黙していることができず、あなたをほめたたえます」でも喜びへの転換が歌われる。現代ヘブライ語でも「パーティ・お祝いの場」を指すことばとして生きている。語末 ָה が大カメツ・ヘー。
אַהֲבָה
Ahavah
愛
「愛する」動詞 אהב の女性名詞形。申命記6:5「心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして主を愛しなさい」の「愛しなさい(וְאָהַבְתָּ)」と同語根。雅歌8:6では「愛(אַהֲבָה)は死のように強く」と詠まれ、聖書神学において神の愛を語る核心語のひとつとして用いられる。語末 ָה が大カメツ・ヘー。
שָׁנָה
Shanah
年、一年
「繰り返す・変わる」を語根とする女性名詞で、時の単位「年」を表す。創世記1:14「季節のしるしとなり、日や年のしるし(וְלַשָּׁנִים)となれ」に初出し、族長たちの系譜(創世記5章)では各人の生涯が「〜年(שָׁנִים)生きた」と記録される。「ロシュ・ハシャナー(新年祭)」の שָׁנָה もこの語で、語末に大カメツ・ヘーを持つ。
聖書の引用は特記のない限り、聖書 新共同訳(日本聖書協会)による。